松山地方裁判所 昭和24年(行)45号 判決
原告 西川豊子
被告 今治市長
一、主 文
被告が昭和二十四年三月四日付原告所有の別紙目録記載の宅地についてした特別都市計画事業の土地区画整理のための換地予定地指定を取り消す。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、請求の趣旨
原告訴訟代理人は被告が昭和二十四年三月四日付原告所有の別紙目録記載の宅地についてした特別都市計画事業の土地区画事業のための換地予定指定は無効であることを確認する、訴訟費用は被告の負担とする旨の判決を求めた。
三、事 実
原告は昭和十六年三月以降主文掲記の宅地を賃借しここで履物商を営んで來たところ昭和二十年八月六日の戰災で該地上の建物が燒失したが同年十二月この宅地を買受け昭和二十一年一月にはこれに店舖を建築し再び履物商営業を開始し爾來今日に至つたものである。しかるに被告は現に施行中の今治市特別都市計画事業における土地区画整理(六十ブロツク)のため特別都市計画法第十三條により昭和二十四年三月四日本件宅地の換地予定地を今治市常盤町三丁目(通称)に指定(飛換地を指定)した。しかしながら右換地予定地は本件宅地に比べて店舖としての利用價値がはるかに劣つており若干の地積の増分を受けた位では償うことのできない著しい財産上の不利益を被ることとなり被告の右換地予定地の指定は特別都市計画法の準用する耕地整理法第三十條の規定に違反するものである。そもそも原告が飛換地の指定を受けねばならなかつたのは同ブロツク内の原告よりも地積のはるかに少く從前の地積で十五坪六合三勺にすぎない訴外野間熊一が被告の定めた土地区画整理の取扱基準によれば十八坪に足りない宅地として当然金銭清算を受けるべき地位にあつたにもかかわらずその借地人である訴外青葉史夫が区画整理委員会に策動して被告が委員会の意見に盲從し右野間熊一の宅地を同人所有の等位の劣る宅地と合筆して今治市の適正宅地の基準面積(特別都市計画法第八條同法施行令第十三條によつて被告の決定したもの)である百平方米(約三十坪)としてその換地予定地を原告の現在する本件宅地(四百五十八番地の一)上に指定したによるものである。なお同一ブロツク内の居住者で友田秀秋は從前の地積で二十一坪八合一勺を所有していて現地に換地予定地の指定をうけ達川喜藏は通称(以下略す)常盤町側に十八坪九合二勺と通称(以下略す)金星町側に十二坪二合を所有し原告とほとんど同様の條件および地積でありながら從前よりもむしろ有利な常盤町一丁目(本件四百五十八番地の一の宅地と道路をへだてた反対側)に換地予定地の指定をうけているものである。かような次第で原告ひとり甚だしい不利益な取扱をうけることになる換地予定地の指定は重大な違法処分で当然無効というべくこれが確認を求めるものである。と陳述し被告の答弁に対し本件二筆の宅地は金星川に架した木橋をもつて連結されて一体をなしその表口は常盤町側に面しておりなお該木橋には市税が課徴されているものである。と述べた。(立証省略)
被告訴訟代理人は原告の請求を棄却する、訴訟費用は原告の負担とするとの判決を求め答弁として被告が原告に対し原告主張の宅地に対する特別都市計画法上の換地予定地の指定をしたこと、被告が訴外野間熊一に対し原告主張の如き換地予定地の指定をしたこと、今治市における適正宅地の基準面積が百平方米(約三十坪)であること、被告の土地区画整理上取扱の基準として從前の宅地十八坪以下のものは金銭清算することになつていることはいずれもこれを認めるも被告の右換地予定地の指定が無効の処分であるとの主張はこれを爭う、原告所有の百九十六番地の宅地は金星町の裏地にあつて経済的利用價値著るしく低く常盤町一丁目に面する四百五十八番地の一の宅地に比べて三分の一の等位にあると見るを至当とするのでこれは後者の地積に換算して三坪五合一勺となるに過ぎず今治市の土地区画整理においては從前の地積から二割一歩控除したものを整理後の地積(権利地積)としているものであるから両者を合した原告の権利地積は合計十八坪五合五勺となりようやく金銭清算を免れたものであるに過ぎない。從つて被告は原告に対して十一坪四合五勺の地積を増して換地を指定(増換地)しなければならないのであるが過少宅地の整理について基準を指示した昭和二十一年九月十七日付戰復第四八一号戰災復興院次長通牒に基ずき小地積の宅地は從前に比し低品位の土地に換地する方針に從うと原告に対し從前の宅地にそのまま増換地の指定をすることは到底できない。それは不当に原告を利することとなるからである。一方野間熊一は同ブロツク内(常盤町一丁目)今治村四百五十六番地に從前の地積で十五坪六合三勺(権利地積に換算して十二坪三合四勺)を所有しているが同人は別に金星町側の今治村百九十三番地の一に從前の地積で百十九坪六合七勺(その他に七筆以上合計千二百八十九坪八合八勺)を所有しているのでこれを前述の原告の場合と同様前者の等位(前者三対後者一)に換算し從前の地積五十六坪六合八勺を前者と合併し権利地積を適正宅地の基準百平方米(約三十坪)として原告の現在地(四百五十八番地の一)に指定したものである。以上の理由で被告は原告に対し從前の宅地と比べていくらか等位の落ちる常盤町三丁目に増換地を指定したものであつてこれは何等違法な処分ではない。と陳述した。(立証省略)
四、理 由
原告が今治市大字今治村四百五十八番地の一に宅地十九坪九合七勺および同市同大字百九十六番地に宅地十坪五合三勺を所有しており被告が現に施行中の今治市特別都市計画上の区画整理のため原告の右二筆の宅地を合併した換地予定地三十坪を原告の右宅地に比べて等位の劣る同市常盤町三丁目に指定したこと、今治市特別都市計画事業の土地区画整理施行上適正宅地の基準面積は百平方米(約三十坪)であつて從前の宅地から二割一歩控除したものを権利地積とする扱であることは当事者間に爭ないところである。
まず原告の宅地の権利地積が果して被告主張の如くであるかについて考えて見るに檢証の結果によれば金星町側の百九十六番地の宅地は常盤町側の四百五十八番地の一の宅地と金星側に架けてある木橋を以つて連繋せられているものであつてその表口は常盤町側に面していることが明瞭であり証人西川弘の証言によれば右木橋には年十二円の市税さえ課徴せられていることを認めるに足るから両者は利用上の價値において差別して考えるべきでなく原告は從前常盤町側において三十坪五合の宅地を有していたものとみなすを至当とし從つて原告の権利地積は被告の主張する如く十八坪五合五勺ではなく約二十四坪一合であると認めるを相当とし被告はこの前提の下に原告に対し換地予定地を指定すべきである。
しこうして被告の挙示する戰災復興院次長の通牒によれば小地積の土地は從前の土地に比して低品位の土地に換地するとの取扱基準を示しているけれども該通牒は特別都市計画法の準用する耕地整理法第三十條の解釈を補う範囲において妥当するものと認むべきところたとえ増換地をするのであるからと言つてこれを從前の土地と比べて甚だしく低品位の土地に移すことは右法條に違反するものというべくまた同様の事情にある過少宅地の所有者(または借地権者)と差別して扱うことも同じく違法な処置と言はなければならない。これを本件について見るに原告の換地予定地が本件宅地に比して劣位に在ることは当事者間に爭ないことは前述の通りであるところ檢証の結果によれば本件宅地の所在する常盤町一丁目は幅員六間余の道路の両側に商店櫛比し鈴らん燈を点ずるなどしていて一見繁華街であることを認めるに足り同町二丁目も同一の状況であるに反し原告の換地予定地の指定を受けた同町三丁目は起点(二丁目と三丁目との境界は幅員約十五間の柳町と交叉する)から幅員約十五間(その中央から北寄りを小川が貫流する)の防火道路となり原告の指定を受けた換地予定地は起点から約二十間の位置で道路の南側にありその側は一應商店街を形成しているけれどもその反対側は商店街というに足らず空地さえある状況で一見して人通り少く活気を欠くと認めるに足るから原告の換地予定地は本件宅地に比してはるかに等位が劣り原告はたとえ五坪九合の増換地の交付を受けたとしてもそれによつてこの劣位を償うことはできぬというべきである。
しかるに訴外野間熊一が本件宅地と同一ブロツク内の常盤町側の今治村百五十六番地に從前の地積で十五坪六合三勺(権利地積に換算して十二坪三合四勺)を所有しておりこの土地は從來他に賃貸していたものであるところ被告はこれに同人の金星町側の今治村百九十三番地の一の從前の地積で百十九坪六合七勺の宅地の一部を合筆して本件宅地(四百五十八番地の一)に換地予定地三十坪を指定したものであることは当事者間に爭ないところであるが一方今治市特別都市計画事業の土地区画整理施行上從前の地積十八坪以下の宅地上の権利は他と合併して換地するのでなければ金銭清算をする扱であることは被告の主張自体で明らかであるから四百五十六番地の宅地上の訴外青葉史夫の賃借権は当然金銭清算されて消滅し――被告に対し借地の届出がなければ補償の請求もできない――所有権者野間熊一も金銭清算をうけるのでなければ借地権の制限を受けない土地として他の宅地と合併して換地をうけるべきである。しかしこれを他と合併するには前示戰災院次長の通牒によつて低品位の土地に合併して換地するを相当とするところ野間熊一の金星町側の百九十三番地の一の宅地は常盤町側の四百五十六番地の宅地に比べて等位が劣るものであることは当事者間に爭なくかつ前者は後者に比べて地積がはるかに廣いから後者を前者に合併して金星町側に換地を指定すべきものであるのみならず從前野間熊一が自から使用していなかつた宅地でかつ將來も使用しない宅地を同人の使用する宅地として換地予定地を指定するが如きは他に優先権者のない場合においてならばともかく一般的にいえば適法な処置とはいい難いところである。本件においては前述するとおり原告に対する飛換地の指定は適法な処分でなくもし野間熊一に対する上叙の換地予定地の指定がなかつたとすれば原告は当然現地換地の指定を受くべき相関関係に在ることが明らかで要するに原告は野間熊一に優先して現地換地の指定を受くべき地位にあるというべきである。しかも同一ブロツク内の居住者の中訴外友田秀秋が從來の所有宅地の地積二十一坪八合一勺で現地に換地予定地の指定を受け訴外達川喜藏が常盤町側に十八坪九合二勺と金星町側に十二坪二合の宅地を所有していて常盤町一丁目内に換地予定地の指定を受けたことは当事者間に爭ないところであるがこの両名の換地指定と対比しても首肯するに足る理由なくして原告ひとり不利益な処分を受けたことになるのでこの点から言つても原告に対する換地予定地の指定は相当な処分とは言い難い。
これを要するに被告の原告に対する本件換地予定地の指定は特別都市計画法の準用する耕地整理法第三十條に違反する処分と認むべきである。しかしながら被告がかような処分をしたことは單に法規裁量処分における裁量を誤つたにとどまりこれをもつて当然無効の処分というに足らない。たとえ原告の主張する如く野間熊一の四百五十六番地の從前の借地人青葉史夫が区画整理委員に対して策動した事実があるとしてもそれが被告の本件換地予定地指定処分を当然無効ならしめる瑕疵ともいえないからこの点についての事実の判断を省略し原告の無効確認を求める本訴は処分が当然無効でない場合は取消を求める請求をも包含しているものと認め被告の原告に対する本件換地予定地指定を取り消すべきものとする
よつて訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九條を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 加藤謙二 橘盛行 水地嚴)